銅版画、木版画
銅版画を学び始めた頃は調子の美しさに魅了され夢中で制作した。秒単位の時間差で出来上がるミクロン単位の腐食の溝を造り上げるため、秒針とにらめっこ。作業はいつもドキドキ。そして、試し刷りの後 一喜一憂。
しかし、間接的で繊細な作業に次第に苛立たしさを持ち始めた。そんな時にカラマツの落葉に出会った。この支持体に刷ることのできる銅版は通常の製版では出来上がらない。荒々しい支持体に刷り取ることのできる版の線は太く深い溝のみ。刷り取られた線はインクが滲みはみ出て、これでもかと言わんばかりに主張する。繊細な溝は一切刷り取らない、何と潔いことか。そして、落葉のテクスチャーが見え隠れする画面からは森の匂いや湿り気が醸し出された。間接的である銅版画制作が少し直接的に傾いた。
(土屋敦資)
「森の標 16-1 」 86x76cm 木版、ED.3
金箔、落葉の紙に雁皮刷り 2016年
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